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大阪地方裁判所で免責不許可とされた過去の事例について 22022-11-22 18:00

カテゴリ: 自己破産

 自己破産を検討されている方は、借金の負担から解放され、今後の生活の立て直しを図ることを一番の目的とされていると思います。

 個人の方が自己破産をする最大の目的は借金を免除してもらうことにあるはずです。自己破産をすると、借金(債務)について支払いの責任を免除してもらうことができます。このことを免責といいます。

 厳密には、破産手続と免責手続は別の手続ではありますが、自己破産を検討している方は基本的には両方の手続を行うことを希望されているはずです。

 しかし、自己破産の手続をしたからといって、必ず免責されるわけではありません。

 「免責不許可事由」がある場合には、裁判所に免責を許可してもらえないことがあります。

 自己破産をしても免責を受けることができなければ、意味がありませんので、自己破産をするにあたっては免責不許可事由があるかどうかを検討しておく必要があります。

 過去に「免責不許可」とされた事案の概要が参考になると思われますので、ご紹介いたします。

1 問題となった破産法の規定

 破産法では、第252条第1項各号に、免責不許可事由が定められています。

 今回紹介する事例で免責不許可とされたのは、以下の類型に該当するとされたものです。

 また、多く認められている免責不許可事由の類型は、浪費・射幸行為によって著しく財産を減少させたこと(破産法第252条第1項第4号)及び破産者が重要財産開示義務や説明義務等の法律上の義務に違反したこと(同項第11号)です。

・ 1号 財産の不利益処分

 「債権者を害する目的で,破産財団に属し,又は属すべき財産の隠匿,損壊,債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。」

・ 2号 不当な債務負担行為

 「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。」

・ 3号 非義務偏頗行為

 「特定の債権者に対する債務について,当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で,担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって,債務者の義務に属せず,又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。」

・ 4号 浪費・射幸行為

 「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。」

・ 5号 詐術による信用取引

 「破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。」

・ 8号 調査における説明拒否・虚偽説明

 「破産手続において裁判所が行う調査において,説明を拒み,又は虚偽の説明をしたこと。」

・ 11号 破産法上の義務違反

 「第40条第1項第1号,第41条又は第250条第2項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。」

2 免責不許可とされた事例の内容

 大阪地方裁判所において、2015年7月から2016年7月の間に、免責が不許可となった事件は以下の11件のようです。

① 3号に該当する事由として、一部の債権者への優先弁済を目的として、弁済期の明確な定めがなかったにもかかわらず、約830万円を弁済した。

 8号及び11号に該当する事由として、上記弁済先の人定事項につき、破産申立時点で明らかにされておらず、その後複数回にわたる管財人からの説明要求に対しても回答を拒絶した。

 免責不許可の主な理由として、弁済額は、形成された破産財団(約50万円)に比して高額な一方、一般破産債権者に対する配当はされていないため、債権者間の公平が大きく害された。説明拒絶の結果、管財人による管財業務の遂行が妨げられた上、免責不許可の可能性について申立代理人や管財人から告げられてもなお説明を拒絶し、破産手続との関係での不誠実な態度をとったことが挙げられています。

➁ 3号に該当する事由として、支払い不能時期以降に特定の債権者に1200万円を弁済した。

 4号に該当する事由として、破産者以外の者が負担すべき多額の飲食費等(約570万円)を破産者が支出した。

 11号(破産法37条1項)に該当する事由として、開始決定以降、裁判所の許可なく、9回にわたって海外渡航をした。

 免責不許可の主な理由として、支払不能時期以降に約2500万円も費消した上、破産申しあって時点では、1740万円の処分済み財産の存在を明らかにしていなかったことが挙げられています。

③ 11号(破産法40条1項1語、250条2項)に該当する事由として、使途不明金約630万円や未申告の預貯金口座につき、管財人に十分説明をせず、可能な限り事実関係を明らかにする意思も伺われないところであり、破産者の説明として真摯とはいえず、説明義務違反に該当する。

 免責不許可の主な理由として、管財人から免責不許可の可能性を指摘されても、破産者は、自らの説明義務違反の状態を改めることをせず、債権者集会や管財人との面談でも具体的事実を明らかにする意向はみられなかったから、説明義務違反の態様は極めて悪質である。債権者への配当はされなかったが、破産者の説明次第では結論が変わっていた可能性もあり、債権者への影響も軽微とはいえないことが挙げられています。

④ 4号に該当する事由として、共犯者と実行した詐欺の分配金約5100万円の大半を、ネットワークビジネス、宝飾品や自動車の購入などに費消し、破産者の財産状態に秘して不相当な支出をした。

 免責不許可の主な理由として、浪費の額が高額なうえ、詐欺事件の約1年4か月までに免責許可を受けてこれが確定したのに、詐欺事件を起こして再び破産に至ったうえ、開始決定後にネットワークビジネスの会員になったことが挙げられています。

⑤ 3号に該当する事由として、勤務先の金員の横領による損害賠償債務(約7億円)の代物弁済として、株式(約1億円相当)を勤務先に譲渡した。

 4号に該当する事由として、横領した約9億円を株式信用取引で費消し、勤務先に対して損害賠償債務を負担することになった。

 免責不許可の主な理由として、株式信用取引に浪費した金額(約9億円)は同種事案の中でも著しく高額であるうえ、横領の発覚防止のために偽造の残高証明書を提示したことが挙げられています。

⑥ 11号(破産法40条1項1号、250条2項)に該当する事由として、破産申立時に破産者が所持していると申告した約80万円の現金につき、管財人が所持の状況を尋ねたところ、破産者は、ほとんど所持していない旨を回答した。その使途に関する管財人からの質問に対し、破産者は、虚偽の回答をし、以後も虚偽の回答を続けた。

 免責不許可の主な理由として、管財人からの説明要求に対して、1年にもわたって虚偽の回答を繰り返したうえ、そのことについての真摯な反省がないことが挙げられています。

⑦ 4号に該当する事由として、約3年の期間で外商取引によって約4000万円を費消し、自動車とバイクを合計約950万円でローンを組んで購入した。また、破産者は、自らが経営する会社において自己の報酬も確保し難い状況にある中、約5か月の間に約440万円もの外商取引をおこなっており、浪費の程度は悪質であった。

 免責不許可の主な理由として、上記の点に加え、破産者は、会社の経営が窮する中でも生活レベルを落とさず、配当率も0.3%未満にとどまったことからすると、破産者の浪費行為が債権者に与えた影響も甚大であったことが挙げられています。

⑧ 4号に該当する事由として、勤務先から合計1億4300万円を横領し、その大半を風俗店の利用や風俗店勤務の女性への贈答品に費消した。破産者の債務の大半を占める横領による損害賠償債務は、こうした浪費が動機となっている。

 免責不許可の主な理由として、浪費の金額が非常に多額で、その使途や目的の正当化も困難であることが挙げられています。

⑨ 4号に該当する事由として、財産状況が悪化する中、約70万円の時計を購入した。

 11号(破産法40条1項1号、250条2項)に該当する事由として、免責不許可事由の有無の判断に影響を及ぼし得る自動車の処分の相手方や同人に対する債務額、債権者一覧表に記載のない債権者の氏名や債務額等について、管財人から面談や書面を通じて尋ねられたが、いずれにも回答しなかった。

 免責不許可の主な理由として、以下の点が挙げられています。

・ 管財人への説明義務を怠ることが免責許否の判断に影響を与えると告知されており、回答の機会が何度もあったにもかかわらず、管財人からの調査に応じておらず、破産手続きに対する不誠実性は重大である。

・ 本件の破産手続は廃止となったが、破産者が説明義務を果たしていれば、債権者に配当ができた余地もあり、債権者への影響も軽視できない。

⑩ 4号に該当する事由として、約3年半の間にクレジットカードを高級ブランド品等(2億6000万円以上)及び新幹線回数券など(1000万円以上)の購入のために利用した(支払不能後の約9カ月に限っても、6300万円以上相当の高級ブランド品がクレジットカードで購入された。)こうしたクレジットカードの高額利用は配偶者の利用によるものも多いが、破産者は、そのことを知りながら放置しており、その放置自体も、浪費による過大な債務負担といえる。

 免責不許可の主な理由として、破産者の真摯な反省には疑問があるうえ、本件の破産手続きは異時廃止に終わり、浪費行為が債権者に与える影響は甚大であった。また、支払不能後の浪費額やその浪費行為の悪質性も考慮すべきであることが挙げられています。

⑪ 5号に該当する事由として、破産申立後、開始決定までの間に、その申立てについて告げず、あるいは自己の信用に関して虚偽の事実を記載した申込書を提出した50万円を借り入れた。

 11号(破産法40条1項1号、250条2項)に該当する事由として、破産申立後に借入をしたにもかかわらず、免責不許可事由に関する報告書の記載を訂正せず、管財人から指摘を受けるまでその旨を報告しなかったうえ、借入金の使途について虚偽の報告をした。

 免責不許可事由の主な理由として、以下の点が挙げられています。

・ 借入れにあたって、闇金融業者からの返済強要があった旨の破産者の主張が真実であっても、借入れ当時、破産者は弁護士に手続を委任していた以上、借入れを回避することは十分可能であった。

・ これらに加え、その他にも詐欺的行為による金員を借り入れをし、債権者から免責を不許可とすべき旨の意見が提出され、また、管財人の働きかけにもかかわらず、被害回復に向けた努力や成果が見られない。

3 まとめ

 破産手続きを検討されている方は、免責を受けることを大きな目的とされていると思います。

 ある程度の免責不許可事由があったとしても、誠実に対応していれば、裁量免責を受けることができる可能性はありうますが、今回ご紹介したような事例では、免責が不許可とされています。

 破産手続きにおいては、正直に事情を話し、何も隠し立てしないよう心掛ける必要がありますし、破産管財人の調査などの協力し、破産法を守って適正な手続が行われるようにしなければなりません。

 自己破産を検討されている方は、上記のような行為を行わないよう注意していただく必要がありますが、ご自身では分からないこともあろうかと思われますので、まずは弁護士にご相談いただければと存じます。

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