弁護士が債務整理事件を受任すると、まず最初に受任通知を債権者(借入先等)に送付します
この受任通知を送付することによって、債権者からの取り立てが停止し、ご相談者様は債権者からの執拗な連絡、通知から解放されることができ、精神的にもかなり負担が軽減されることと思います。
今回は、この受任通知の効力や記載内容について解説します。
1 受任通知の効力
「受任通知」というのは、基本的には、名前のとおり、弁護士が債務整理事件を受任したということを各債権者に通知する文書です。
それだけではなく、この受任通知を送付することにより、サラ金・信販会社等の貸金業者や債権回収会社からの直接の取立ては停止します。
これは、以下のような法律があるためです。
受任通知は、以下の貸金業法第21条第1項9号の「弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知」、債権管理回収業に関する特別措置法第18条第8号の「その旨の通知」にあたります。
・ 貸金業法第21条第1項第9号 (取立て行為の規制)
貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たって、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。
九 債務者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。
・ 債権管理回収業に関する特別措置法第18条第8号 (業務に関する規制)
8 債権回収会社は、債務者等が特定金銭債権に係る債務の処理を弁護士又は弁護士法人に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとった場合において、その旨の通知があったときは、正当な理由がないのに、債務者等に対し、訪問し又は電話をかけて、当該債務を弁済することを要求してはならない。
貸金業法においては,受任通知受領後,貸金業者は,電話・電報・FAX・訪問などの方法で債務者に対して直接の取立てをすることを禁止し,サービサー法では,訪問・電話による直接の取立てを禁止しています。
債権管理回収業に関する特別措置法では,訪問・電話だけが定められていますが,実際には,FAXや電報による取立てもなされないのが通常です。
なお、上記の規定に違反した場合には、罰則があります。
・ 貸金業法47条の3第3号
前記第21条第1項の規定に違反した者は、二年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
・ 業務停止や貸金業登録取消しなどの行政処分の対象となる場合もあります。
・ 債権回収会社の場合も、債権回収会社の許可の取消し等の行政処分を受ける場合があります。
ただし、貸金業者や債権回収会社等以外の債権者については、法律上、直接の取立てが禁止されているわけではありません。
しかし、受任通知には今後は弁護士に連絡するよう記載しますし、相談者本人が対応しなければならないという法律もありませんので、対応する必要はなく、実際上は、弁護士がその債権者に受任通知を送付すると、直接の取立てを停止してくれることが大半です。
なお、受任通知送付後も、裁判手続による貸金の回収が禁止されるわけではありませんので、訴訟等を止めさせることはできません。もっとも、通常は、債務者側の状況を確認しつつ、一定期間は提訴を停止されることが多いです。
2 受任通知の記載事項について
受任通知には以下のような記載をすることが一般的です。
① 弁護士が債務整理を受任したこと
② 債務整理の方針について
受任通知送付の段階で、自己破産・個人再生・任意整理のどの方針をとるのかが確定していれば、具体的に記載することもあります。
③ 債務者の情報(氏名や生年月日、住所など。)について
誰の件であるのかを特定するために記載します。
なお、債権者に現住所を教えるのが妥当でない場合には、記載しないことがあります。
④ 債務者への直接の取立て・連絡の停止を求めること
受任通知後は、依頼を受けた弁護士が交渉の窓口になる旨を伝え、債務者に直接取立て等をすることを停止するように要求します。
⑤ 取引履歴の開示を求めること
⑥ 債務の承認に当たらないこと
借金の返済義務も、時効期間が経過して、時効の援用を行えば、消滅時効により消滅しますが、時効が中断した場合には、中断した時点から再び時効期間が進行することになります。
また、時効期間が経過した後でも、借金(債務)があることを承認すると、時効の援用が許されなくなる場合があります。
そのため、時効の中断や、時効援用の制限が為されないよう、債務の承認はすべきではありません。
受任通知を送付することは、この債務の承認に該当するのかが一応問題にはなりますが、基本的には当たらないものと考えられます。ただ、そのように考えられるという限度ですので、念のため、受任通知には債務を承認するものではない旨を記載するのが通常です。
3 受任通知の効果、記載事項については、上記のとおりです。
もっとも、受任通知を送付するタイミングや、全ての債権者に送付するのかといった点については、別途検討が必要になります。
その点については、別途、記事にさせていただきますが、ご不明な点があれば、まずは弁護士に相談いただければと存じます。