1 自己破産手続を行う目的・「免責」について
自己破産手続を行うことを検討されている方は、返済を続けることが困難になった膨大な借金について、その借金の返済義務・負担から解放されることを目的とされていると思います。
この目的を実現するものが裁判所から下される免責許可の決定です。
今回は、この免責許可の決定について説明させていただきたいと思います。
2 「免責」とは
免責に関して、破産法では、「免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。」と記載されています(第253条第1項柱書本文)。
免責とは、借金などの債務について、支払う責任を免れることができる、つまり、言い方は悪いかもしれませんが、チャラにすることができるということです。
裁判所により免責が許可されれば、その後は、借金などの債務を支払う必要が無くなります。
3 免責が許可されない場合・免責の要件について
もっとも、破産手続を行えば、誰でも彼でも、どのような経緯で債務を負ったのであっても、免責許可決定を得ることができる、というわけではありません。
破産法上、裁判所が免責許可の決定を出す条件について、以下のとおり定められています。
「(免責許可の決定の要件等)
第二百五十二条 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
二 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
三 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
四 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
五 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
六 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。
七 虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。
八 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。
九 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。
十 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第二百三十九条第一項に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ハ 民事再生法第二百三十五条第一項(同法第二百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
十一 第四十条第一項第一号、第四十一条又は第二百五十条第二項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。」
要するに、上記のとおり列挙された事情(免責不許可事由)があると、免責許可の決定を出すことはできないということです。
この中で最も問題になることが多いのは、ギャンブルがあった場合に上記の4号(浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。)に当たるのではないかという点であるかと思いますが、破産手続を行う場合には上記のような免責不許可事由に該当することがないか、検討する必要があります。
免責手続では、上記のような免責不許可事由がないか、免責を許可することができるか否かが調査されます。
4 裁量免責について
もっとも、免責不許可事由がある場合でも、絶対に免責を受けることができないというわけではありません。
破産法上は、以下のように定められています。
「2 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。」
免責不許可事由がある場合であっても、その他の様々な事情を踏まえて、裁判所の裁量によって、免責が許可されることがあるということです。このような場合に認められる免責を「裁量免責」といいます。
免責不許可事由がある場合でも、実際には、この規定によって、免責が許可されることは少なくありません。
どのような事情があれば裁量免責が認められるのかという点については、ケースバイケースですので、一概にはいえませんが、主には、免責不許可事由の程度が重大ではないこと、破産に至った経緯についての反省状況、今後の生活を立て直すためにどのような計画を立てているか等については説明をしていく必要があると考えられます。
免責手続では、免責不許可事由があるとしても、裁量免責にすべき事情があるかも含めて調査されます。
5 非免責債権について
免責が許可されたとしても、すべての支払いを免れることができるわけではなく、性質上免責を受けることができないとされているものもあります。
破産法上、免責を受けることができない債権については、以下のとおり列挙されています。
「一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七 罰金等の請求権」
また、このほかにも国民健康保険料等の一定のものについては、「破産債権」ではなく、「財団債権」と呼ばれ、免責の対象にはなりません。
これらの免責を受けることができない債権については、その支払いを免れることはできませんので、免責が許可されたとしても支払っていかなければならないということになります。
6 まとめ
破産手続を検討されている方であっても、自分が免責の対象になるか、免責不許可事由があるとしても免責を受けることができる可能性はないか、自分の抱えている債務が免責の対象になるものなのか等について、ご自身では判断しかねることが殆どであると思われます。
ご自身でお調べになったとしても、その判断が誤っている可能性もありますので、お早めに専門家に相談することをお勧めします。既に多方面での支払い不能が生じている場合は、早急に弁護士にご相談ください。現状を的確に把握した上で、最適な解決方法をアドバイスいたします。