1 同時廃止事件と破産管財事件の振分基準について
破産事件には、裁判所が破産管財人を選任する破産管財事件と、破産手続開始決定と同時に破産手続廃止決定を行う同時廃止事件があります。
破産管財事件になった場合には、同時廃止事件よりも、裁判所に納付する手続費用が多く、また、手続が終わるまでに時間がかかることになり、破産手続を行う方にとって様々な面で負担の大きさが変わってくるため、どちらの手続になるかについては大きな問題だと思われます。
今回は、この破産管財事件と同時廃止事件のいずれになるかという事件の振分基準について、大阪地方裁判所の基準についてご説明いたします。
2 破産管財事件と同時廃止事件
破産手続は、自分自身の財産や収入だけでは、債務(借金)を完済することができなくなった場合に、裁判所が破産管財人を選任し、破産管財人に選任された弁護士が、破産者の財産を換価(第三者に売却する等の方法でお金に換える。)したうえで、そのお金を債権者(借入先)のすべてに公平に配当(支払い)を行い、債務(借金)を清算する手続です。
破産法上は、上記のように破産管財人が選任される「破産管財事件」が原則です。
これに対して、破産者の財産が非常に少なく、破産管財人を選任して財産を換価したとしても、破産手続を進めるために必要な破産管財人の報酬等の費用すら支払うことができないと見込まれる場合には、裁判所は、破産手続の開始と同時に、破産手続の廃止(終了)の決定を行い、破産管財人は選任されません(破産法216条)。
このように、破産管財人が選任されず、破産手続開始決定と同時に破産手続廃止決定がされる事件を「同時廃止事件」といいます。
3 振り分けの基準
破産管財事件と同時廃止事件のいずれになるかについては、上記のとおり、破産法上は破産管財事件が原則的な形で、同時廃止事件は例外的なものであるため、一定の換価すべき財産が見込まれる場合には破産管財事件となってしまいます。
この「一定の換価すべき財産が見込まれる場合」について、大阪地方裁判所では、概要、以下のような振り分け基準が定められています。
① 所持する現金及び普通預貯金の合計額が50万円を超えると認められる場合
② 現金等以外の12項目の財産について項目ごとの合計額が20万円以上となる場合
現金・預金の合計額が50万円までで、一定の財産の価値が20万円未満であれば、原則として、同時廃止事件になります。
12項目の財産とは、以下のとおりです。
① 預貯金(普通預貯金以外のもの)
② 保険の解約返戻金
③ 積立金等(社内積立て、財形貯蓄など)
④ 賃借保証金・敷金の返戻金
⑤ 貸付金・求償金等
⑥ 退職金
⑦ 不動産
⑧ 自動車
⑨ 上記以外の動産(貴金属、着物、電化製品など)
⑩ 上記以外の財産(株式、会員権など)
⑪ 近日中に取得することが見込まれる財産(交通事故の損害賠償金、財産分与など)
⑫ 過払金
以下、各資産ごとに詳細をご説明いたします。
4 各試算について
⑴ 現金・普通預貯金について
破産開始の時点で保有する現金が50万円を超える場合、他にも財産を有している可能性があることから、破産管財事件となります。
普通預貯金は、現金とほぼ同じと考えられるため、現金と普通預貯金を合計した金額が50万円を超える場合には、破産管財事件となります。
⑵ 普通預貯金以外の預貯金
預貯金の額面額が20万円を超える場合には、破産管財事件となります。
預貯金通帳等で確認させていただきます。
⑶ 保険の解約返戻金
解約返戻金の額面額が20万円を超える場合には、破産管財事件となります。
保険会社から解約返戻金額の証明書を取得いただいて確認します。
⑷ 積立金等
積立金等の額面額が20万円を超える場合には、破産管財事件となります。
財形貯蓄、社内積立等については、給与明細の記載等で確認します。
⑸ 賃借保証金・敷金の返戻金
契約上の返戻金額から60万円(原状回復費用・明渡費用として)を差し引き、更に未払い賃料を差し引いた額が20万円を超える場合には、破産管財事件となります。
また、事業用の賃借物件の場合には、明渡しのときにかかる原状回復費用等の実額で判断します。
賃貸借契約書等から確認します。
⑹ 貸付金・求償金等
原則として額面額が20万円を超える場合には、破産管財事件となります。
ただし、貸付先が破産していたり、生活保護を受給し始めた等貸金・求償金を回収できる可能性が無い場合には、そのような貸付金・求償金については0と評価することができます。
借用書等から確認します。
⑺ 退職金
原則として、破産手続が開始したときに退職した場合に支払われる金額の8分の1で評価し、その評価額が20万円を超える場合には、破産管財事件となります。
ただし、公務員で退職時期が近いなど退職金が確実に支払われるだろうと思われる事情がある場合には、8分の1から4分の1の範囲で割合を判断して評価されます。
勤務先から発行してもらう退職金額の証明書や就業規則・退職金規定等から確認します。
⑻ 不動産
ローン(不動産に抵当権等の担保権が設定されているもの)の残額と不動産の評価額によって、以下のようになります。
ローンの残額が、固定資産税評価額の2倍を超える場合には、実質的な価値が無いものとして取り扱われます。
ローンの残額が、固定資産税評価額の1.5倍は超えるが2倍以下の場合は、ローン残額が不動産の査定書の評価額の1.5倍を超えるときは、実質的な価値が無いものとして取り扱われます。
ローンの残額が、固定資産評価額の1.5倍超~2倍以下の場合で、不動産の査定書の評価額の1.5倍以下の場合には、原則として破産管財事件となります。
ローンの残額が、固定資産税評価額の1.5倍以下の場合には、破産管財事件となります。
ローン残高の明細書、固定資産評価証明書、不動産の査定書等から確認することになります。
⑼ 自動車
基本的には、レッドブック(オートガイド社が毎月発行するオートガイド自動車価格月報)又は査定資料により実質的価値を判断します。
日本製の普通自動車であれば、初年度登録から7年を超えており、新車時の車両本体価格が300万円未満の場合は実質的価値が無いと判断されます。
軽自動車・商用の普通自動車であれば、初年度登録から5年を超えている場合には、実質的価値が無いと判断されます。
⑽ 上記以外の動産(貴金属,着物,電気製品等)
財産的な価値がありそうなものについては、査定をしてもらい、査定額で評価することになります。
なお、申立時に10万円以上の価値があるものは申告する必要があります。
⑾ 過払金
申立時に過払い金が回収済みである場合には、現金などとして取り扱われます。
申立時に回収が完了していない過払い金については、その額面額が30万円以上の場合には、破産管財事件となります。
4 まとめ
破産手続を検討する際には、破産管財事件になるのか、同時廃止事件にすることができるのか、判断がつかないことが多いと思います。
破産を申し立てる方からすれば、可能であれば、同時廃止事件となることが望ましいものと思われますが、上記のような基準から破産管財事件にならざるをえない場合もあります。
いずれの手続になるかについては、まずは上記の基準にあてはまるかどうかを確認していくことになりますが、上記の基準以外にも考慮する必要がある事項も存在しますので、まずは弁護士にご相談いただければと存じます。