自己破産した後の生活はどうなるのか? 自由財産について
1 自己破産してしまうと全ての財産を手放さなければならないのか
自己破産手続を行うことを検討されている方は、自己破産をしてしまうとすべての財産を処分してしまわなければならず、無一文になってしまうのではないかと懸念されている方もいらっしゃると思います。
もちろん、そのようなことはありません。
破産手続は、破産をする方の経済的更生、生活の立て直しも目的とされているので、生活の立て直しのために必要と考えられる一定の財産については、持ち続けることができます。
今回は、そのような財産について説明させていただきたいと思います。
2 「自由財産」とは
自己破産をした場合には、原則として、それまで持っていた財産については処分してお金に換えて、債権者に返済、配当されることになります。
しかし、個人の破産の場合、自己破産をした後も、破産をした方は生活を続けていかなければなりません。
破産をした方の全ての財産が処分されてしまうと、借金を返さなくなって良くなったとしても、破産をした方は生活をしていくことができなくなってしまいます。
そこで、一定の財産については、破産者の生活ができるように、保持し続けることができることになっています。
この破産をしても処分の対象にならない財産を「自由財産」と言います。
⑴ 本来的自由財産
個人の破産の場合、当然に、破産手続の中では処分されない財産があります。これを「本来的自由財産」といいます。
代表的なものは以下のとおりです。
① 99万円以下の金銭
② 破産者及び生計を一にする同居の親族の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品、畳、建具
③ 破産者及び生計を一にする同居の親族の1か月間の生活に必要な食糧、燃料
④ 農業、漁業従事者の農機具、漁具等
⑤ 技術者、職人、労務者等の業務に不可欠な器具等
⑥ 給与債権の税金等を控除した手取り金額の4分の3相当部分(但し、手取り金額が44万円を超える場合には33万円まで)
⑦ 私人からの生活維持のための継続的給付に係る請求権(扶養請求権、生命保険会社との年金保険契約に基づく継続的給付請求権等)の税金等を控除した手取り金額の4分の3相当部分(但し、手取り金額が44万円を超える場合には33万円まで)
⑧ 退職金債権の税金等を控除した手取金額の4分の3相当部分
⑨ 生活保護受給権
⑩ 公的年金の受給権、各種保険給付受給権(傷病手当金、出産育児一時金等)
⑪ 小規模企業共済の共済金
⑫ 中小企業退職金共済の共済金
⑬ 交通事故被害者の直接請求権
⑭ 平成3年3月31日以前に効力が発生している簡易保険契約の保険金又は還付金請求権
⑮ 災害弔慰金、災害傷害見舞金の受給権及びその支給を受けた現金
⑯ 遺留分侵害額請求権
⑰ 離婚に伴う財産分与請求権
⑱ 金額未定の慰謝料請求権
⑵ 自由財産拡張制度について
もっとも、破産をした方の生活の立て直しのためには、本来的自由財産だけでは十分ではなく、それ以外の財産についても自由財産として手元に残す必要があります。
そこで、破産法上は、以下のように定められています。
「4 裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。」
本来的自由財産には当たらないものであっても、その他の様々な事情を踏まえて、破産財団に属しない、つまり、破産手続によって処分されないよう、破産者の手元に残して置ける財産の範囲を拡張するという制度です。この制度を「自由財産拡張制度」といいます。
⑶ 自由財産拡張制度の対象になるのはどのような財産か
どのような財産について自由財産の拡張が認められるかについては、大阪地方裁判所では、運用基準が定められています。
大阪地方裁判所の運用基準では次の二段階の審査が為されます。
① 拡張適格財産性の審査
② 99万円枠の審査
⑷ 拡張適格財産性の審査
以下のような「拡張適格財産」に当たるか否かが審査されます。
① 預貯金・積立金
② 保険契約の解約返戻金
③ 自動車
④ 賃貸借契約の敷金・保証金返還請求権
⑤ 退職金債権
⑥ 申立時において、回収済み、確定判決取得済み又は返還額及び時期について合意済みの過払い金返還請求権
上記以外の財産については、原則として拡張適格財産には当たらないものとされていますが、個別的な事情により、その財産が破産者の経済的再生に必要かつ相当であるという事情が認められる場合には拡張適格財産とされることがあります。
また、破産手続が開始した際に財産目録に記載されていない(申告されていない)財産については、やむをえない事情がない限り、拡張適格財産になりません。
⑸ 99万円枠の審査
上記のような拡張適格財産について、時価で評価して、現金と合計で99万円以下であれば認められ、99万円を超える部分については、原則として認められません。
ただし、評価について、敷金・保証金返還請求権については滞納賃料・明渡費用等(原則60万円)を控除した金額が評価額とされ、退職金債権については原則として支給見込み額の8分の1が評価額とされます。
また、99万円を超える部分についても、個別的な事情により、破産した方の生活の再建のために必要不可欠だと認められる場合には、拡張が認められることもあります。
3 まとめ
以上のように、破産をしたとしても全ての財産が処分されてしまうわけではなく、生活のために手元に残すことができる財産もありますが、ご自身の状況からして手元に残すことができるものか否か判断しかねることも多いと思われます。
ご自身でお調べになったとしても、その判断が誤っている可能性もありますので、お早めに専門家に相談することをお勧めします。既に多方面での支払い不能が生じている場合は、早急に弁護士にご相談ください。現状を的確に把握した上で、最適な解決方法をアドバイスいたします。
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大阪市西区西本町の法律事務所 リトラス弁護士法人
弁護士 山下翔