第1 倒産した場合に従業員の給料はどうなるのか
会社や個人事業主の企業が、破産をはじめとする倒産手続をとる場合に、従業員の給料等がどうなるのかについて、従業員の視点から解説します。
第2 従業員の企業対する請求について
1 請求できる可能性があるもの
会社等が破産する場合には、原則として、従業員は破産手続の開始前に解雇されることになります。
解雇された従業員が、会社等に対して請求できる給料等については、以下のものが考えられます。
① 退職までの未払い賃金・賞与
② 解雇予告手当
③ 退職金
④ 社内預金等会社に預けた金銭
2 法律上の倒産手続が開始される前の時点での対処について
法律上の倒産手続が開始される前の時点でも、以下のような手段により、給料等の支払いを確保しようとすることが考えられます。
① 従業員や労働組合と企業との交渉
② 保全処分としての仮差押
③ 債務名義の取得と強制執行
④ 先取特権の実行としての強制執行
3 法律上の倒産手続が行われた場合について
破産、特別清算、会社更生、民事再生といった法的な倒産手続が行われた場合には、従業員の企業に対する給料等については、概要、次のように扱われます(詳細については、別途、各手続に関する記事で説明します。)。
⑴ 破産手続が行われた場合
企業の資産はすべて破産管財人が管理し、個別的な取り立てや執行はできなくなります。
詳細は省略しますが、法律上の一定のルールに従って、優遇されるものについては管財人から随時支払いを受けることができますが、それ以外のものは配当手続のなかで配当を受けることになります。
配当は、企業の資産の中から行われるので、十分な資産が無ければ(破産するような状態ですので、資産がないことの方が多いと思います。)、十分な配当を受けることはできません。
また、実際に配当が行われるまでにはかなりの時間がかかってしまうことが多いです。
⑵ 特別清算手続が行われた場合
債権申出期間内は、債権者に対する弁済は禁止されますが、労働債権については、裁判所の許可を得て、弁済を受けることができるものとされています。
協定によって労働債権の内容が変更されることはありませんが、必要があるときは労働債権者の参加を求めることができるとされています。
債権申出期間後は、弁済禁止の保全処分の対象とされない限り、全額の弁済を受けることができます。
一般先取特権の実行は、開始決定後も当然には禁止されていませんが、裁判所が認める一定の場合には、中止を命じられることがあります。
⑶ 会社更生手続が行われた場合
更生手続開始前6か月間の賃金や更生手続開始後の賃金は全額、更生手続に拘束されずに随時弁済を受けることができます。
更生手続開始6か月以上前の賃金についても、再生計画において、一般の更生債権より有利な取扱いを受けることができるものとされています。
更生計画認可前の退職者の退職金については、退職前6か月分の賃金額と、退職金額の3分の1のいずれか多い額を限度として、退職金が年金である場合は各期の額の3分の1について、随時弁済を受けることができます。
これ以外の退職金は、原則として、更生手続のなかでしか弁済を受けられませんが、一定の場合には随時弁済を受けることができる場合もあります。
⑷ 民事再生手続が行われた場合
民事再生の場合は、基本的に、労働債権の支払い等の労働問題は、民事再生手続とは別の問題として処理することが想定されています。
労働債権は、一般優先債権として保護され、再生手続によらないで随時弁済されます。
再生手続開始決定後の労働債権は共益債権ですが、これも再生手続によらずに一般の再生債権に先立って随時弁済を受けることができます。
再生計画に関係なく弁済期が来ればいつでも任意に弁済を受けることができるので、再生債務者が任意に履行しないときは、先取特権に基づいて再生債務者の全財産に強制執行したり、仮差押や仮処分の申し立て、債務名義を得るために訴訟することもできます。
第3 未払賃金の立替払い制度について
1 制度の目的
企業が倒産したために、賃金、退職金の支払いが受けられない労働者に対して、その未払い賃金、退職金の一定の範囲について、独立行政法人労働者健康福祉機構が事業主に代わって(立て替えて)、支払う制度があります。
この制度に関する説明や請求手続の書式等は、下記の独立行政法人労働者健康安全機構のホームページでダウンロードできます。
また、労働基準監督署にも説明書や請求手続用紙が置かれています。
(参考)
未払賃金の立替払事業
https://www.johas.go.jp/chinginengo/miharai/tabid/417/Default.aspx
未払賃金立替払請求書・証明書及び立替払請求における各種届出一覧
https://www.johas.go.jp/chinginengo/miharai/tabid/418/Default.aspx
2 制度の概要について
⑴ 倒産について
立て替え払いの制度に関して、倒産には、法律上の倒産と中小企業における事実上の倒産があります。
① 法律上の倒産
法律上の倒産に該当するのは、事業主が、以下のような裁判所の決定・命令を受けた場合です。
・ 破産開始の決定
・ 特別清算開始の命令
・ 再生手続開始の決定
・ 更生手続の開始の決定
② 事実上の倒産(中小企業限定)
事業活動に著しい支障を生じたことにより労働者に賃金を支払えない状態になったことについて、労働基準監督署長の認定があった場合です。
労働基準監督署長の認定基準は次のとおりです。
・ 事業活動が停止していること
・ 事業活動が再開する見込みがないこと
・ 賃金支払能力がないこと
3 立て替え払いを受けることができる人について
次のいずれにも該当する人が、立て替え払いを受けることができます。
① 労災保険の適用事業で1年以上にわたって事業活動を行ってきた事業主に雇用されて、倒産に伴って賃金が支払われないまま退職したこと。
② 以下の日の6か月前の日から2年以内に退職していること
法律上の倒産の場合 : 破産等の申立日
事実上の倒産の場合 : 労働基準監督署長に対する倒産事実の認定申請日
③ 未払給与額等について破産管財人等の証明又は労働基準監督署長の確認を受けていること
なお、労働者を一人以上使用する事業であれば、農林水産業の一部を除いて、すべて労災保険の適用事業に該当するので、基本的には、労災保険の適用事業に該当すると考えてもらって良いかと思います。
4 立て替え払いの請求ができる期間について
法律上の倒産の場合は、裁判所の手続開始の決定・命令の日の翌日から数えて2年以内に請求書を提出する必要があります。
事実上の倒産の場合は、労働基準監督署長が倒産の認定をした日の翌日から数えて2年以内に請求書を提出する必要があります。
5 立て替え払いの対象となる未払賃金について
退職日の6か月前の日から労働者健康福祉機構に対する立て替え払いの請求の日の前日までの間に支払い期日が到来している定期賃金及び退職手当であって、未払となっているものについては、立て替え払いの対象になります。
ただし、総額が2万円未満の場合は対象外です。
賞与や解雇予告手当などは立て替え払いの対象にはなりません。
5 立て替え払いがされる額について
未払い賃金総額の80%が支払われます。
ただし、退職時の年齢に応じて、未払賃金総額として計上される金額には、110万円から370万円の上限があります。
6 立て替え払いの請求手続きについて
⑴ 法律上の倒産の場合
倒産の区分に応じた管財人等の証明者又は裁判所に対して、請求に必要な事項についての証明を申請します。
証明書の交付を受けたうえで、立替払請求書及び退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書に必要事項を記入し、機構宛てに送付します。
⑵ 事実上の倒産の場合
労働基準監督署長に対して、認定の申請を行います。
認定通知書の交付を受けたうえで、立替払請求書及び退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書に必要事項を記入し、機構宛てに送付します。
第4 まとめ
企業が倒産手続をとる場合には、従業員の視点からすると、従業員の給与は以上のような各手続のなかで、それぞれ述べてきたような扱いを受けます。
もっとも、自身の給与がどうなるのか不安な従業員の方、従業員に対してどのような対処をするか考えなければならない経営者の方は、それぞれの置かれた状況の中で、自身がどのように対処していくべきか迷われることが通常ではないかと思います。
このようなお悩みがある場合には、お早めに、弁護士に相談することをお勧めします。