ブログ

会社が倒産する場合の従業員への対応2022-11-07 00:00

カテゴリ: 債務整理一般

第1 会社が破産する場合の従業員の方々への対応について

 会社が倒産してしまう状況のなかで、経営者の方が最も心配になるのは、会社の従業員のことではないでしょうか。

 法人が破産する場合には、法人は清算されて無くなってしまいますので、法人で行っていた事業は廃止するほかありませんし、最終的には、従業員全員を解雇するしかありません。

 しかし、経営者の方としては、従業員に対する対応はどうすればよいのか、従業員の給与はどうすればよいのか、どのような手続を行う必要があるのか、どのような書類を残しておいたほうがよいのか等について、お悩みになるのではないかと思います。

 今回は、会社が破産手続を行うにあたって、従業員に対する対応として気をつけていただきたい点について、解説します。

第2 従業員の解雇について

1 まず、先に述べたとおり、法人が破産する場合には、破産手続が完了した暁には、法人自体が無くなってしまいますので、最終的には、従業員全員を解雇するしかありません。

 もっとも、破産手続の最初の時点では、例外的に、破産手続に協力してもらうために、従業員に給与を支払って、会社に残ってもらう場合もあります。

 しかし、いずれにせよ、最終的には、従業員全員を解雇することになります。

 また、基本的には、破産手続を行う者としては、できるだけ法人の財産が減らないように、法人の負債が増えないように行動すべきことになります。

 従業員を雇い続けたままでは、従業員に対する給与が発生し続けてしまい、法人の財産が減ってしまう、又は、法人の負債が増えてしまうことになりますので、原則としては、破産手続が開始する前に、できるだけ早い時期に、従業員は解雇すべきことになります。

2 解雇の方法には、解雇する時期によって、大きく分けると、①解雇を通知した時点で直ちに解雇する方法と、②解雇予告通知を行った上で、通知した日から30日を経過した時点で解雇する方法があります。

 従業員の側からすれば、②の方法で、解雇予告通知を受けたほうが、その後の身の振り方などを決めることができるので、①の方法を取った場合には、なぜもっと早くいってくれなかったのかと不満を持たれる可能性もあります。

 しかし、従業員に解雇予告通知を行うと、会社が倒産するという事実が会社の関係者に知れ渡ってしまうことになり、混乱が生じるおそれがあります。

 そのため、会社が破産する場合のうち多くは、従業員への解雇通知又は解雇予告通知は、会社が倒産の事実を公表する直前に行うことになります。

第3 従業員の賃金について

1 会社が破産する時点で、従業員に対して、未払い賃金や退職金がある場合には、従業員の方々も債権者として破産手続の中で支払い(配当)を受けることができます。

2 従業員の未払い給料、退職金等については、破産手続のなかでは、以下のような扱いを受けます。

⑴ 従業員に対する未払い給与、退職金等のうち、①破産手続開始決定前3か月分の従業員の給与と、②破産手続終了前に退職した従業員の退職金のうち、退職前3か月間の給料の総額と破産手続開始前3か月間の給料の総額のいずれか多い方の額については、「財団債権」というものになるため、一般の破産債権に対する配当手続によらず、破産管財人によって随時弁済を受けることができます。

⑵ 「財団債権」に該当しない労働債権、つまり、それ以外の未払い給料(破産手続開始決定の3か月以上前の給料など)や給料3か月分を超える部分の退職金、解雇予告手当などについては、「優先的破産債権」というものになり、税金等の「財団債権」が弁済を受けた後、配当手続によって、配当を受けることができます。

⑶ 従業員の給与ではないですが、混同されやすいものとして、会社の役員に対する報酬があります。

 役員に対する報酬については、一般の破産債権として扱われるものですので、上記のような優遇を受けることはできません。

3 以上のように、従業員に対する給与や退職金等については、破産手続上、優遇されます。

 従業員の給与については、経営者としては、なんとか支払ってあげたいという気持ちが強いのではないでしょうか。

 また、従業員としては、これらの給与や退職金等が支払われない場合には、生活に重大な影響が生じることが多いのではないでしょうか。

 先に述べたとおり、従業員に対する給与や退職金等については、破産手続のなかで優遇されるため、仮に、破産しなければならない状況のなかで、従業員に対するこれらの支払いを行ったとしても、後日、破産手続の中で問題にされる可能性は低いと考えられます。

 そのため、会社の財務状況を確認して、可能であれば、破産手続開始決定前に従業員に対する給与等の支払いは行ってしまうほうがよいと思われます。

 その一方で、従業員の給与を支払いすぎて破産手続自体を採ることできなくなってしまうことは避けなければならないので、裁判所に納めることになる予納金やその他の費用の準備をしたうえで、どれくらいの支払いならば行って問題がないかを考える必要があります。

4 注意が必要なこととして、先に述べたとおり、「役員報酬」は、労働債権ではなく、破産手続のなかで、上記の従業員に対する給料等のような優遇を受けることはできません。

 したがって、「役員報酬」については、上記のような支払いを行うことには問題があるため、控えなければなりません。

5 破産をしなければならないという状況なのですから、基本的には、従業員全員に対して、給料、退職金等を全額支払うことは難しいのが普通です。

 そのような場合には、破産手続とは別で、独立行政法人労働者健康福祉機構の未払い金立替払制度というものを利用することができます。

 この制度については、別途、ご説明いたしますが、基本的には、制度を利用するための手続を従業員に説明した上で、上記のような給与、退職金等を支払うかどうかについては、慎重に判断をすべきことになります。

 なお、「解雇予告手当」はこの制度の対象となりませんので、即時解雇を有効に行うために、労働債権の一部のみの支払いしかできない場合には、解雇予告手当から支払うべきことになります。

第4 その他雇用保険、社会保険の手続について

1 雇用保険について

 従業員が退職した場合には、失業保険を受給することができます。

 破産手続申立のために従業員を解雇した場合には、「会社都合退職」となるため、自己都合退職や定年退職の場合よりも、有利な扱いを受けることができます。

 自己都合退職の場合は、7日間の待機期間の後、3か月間の給付制限がありますが、会社都合退職の場合にはこの給付制限がありません。

 また、失業保険の支給日数についても、自己都合退職等よりも期間が長くなります。

2 社会保険について

社会保険の被保険者資格は、解雇の翌日に喪失します。

 従業員としては、社会保険を任意継続するか、国民健康保険に切り替える等の手続を行う必要があります。

第5 各手続について

 以上のような各問題について、まとめると、以下のような手続きを行っておくべきことになります。

1 解雇

 従業員の解雇に関しては、従業員に対して、書面で解雇通知書を交付すべきです。

 また、解雇の有効性や時期に関する後日の紛争を防止するため、従業員からは、解雇通知書の受領証を取得しておいたほうがよいです。

2 給与について

⑴ 給与所得の源泉徴収票を作成し、従業員への交付します。

⑵ 従業員に対する給与全額の支払いができず、労働者健康安全機構による立替払いの制度を利用する可能性がある場合には、従業員に対して丁寧に説明しておくべきです。

 また、従業員が優先的破産債権の届出や労働者健康安全機構の立替払い制度を利用するためには、未払給料等の金額を把握している必要がありますが、その計算を従業員がすることは基本的には難しいはずです。そのため、会社側から、従業員に対し、政権の額についても明示すべきことになります。

⑶ 経理関係の書類については整理、保管しておく必要があります。

3 雇用保険・社会保険等に関して

⑴ 資格喪失届、離職票、離職証明書を交付

⑵ 従業員の被保険者証カード・被扶養者用カードを回収し、日本年金機構へ提出

⑶ 従業員の住民税を特別徴収から普通徴収に切り替えてもらうため、給与所得者移動届出書の作成及び各従業員の課税自治体への提出

⑷ 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届の作成及び年金事務所への提出

第6 まとめ

 会社が破産手続を行うにあたって、従業員に対する対応として気を付けていただきたい点は、以上のとおりです。

 しかし、経営者の方としては、お一人で、上記のような判断をすべて行うこと、事務手続をすべて行うことは難しいこともあるのではないでしょうか。

 そのような場合には、お早めに、弁護士に相談されることをお勧め致します。

 また、当事務所ではこれらの処理についても代理して行うこともできますので、安心してご相談下さい。

お問い合わせ

リトラス弁護士法人についてのお問い合わせは、お電話またはこちらのお問い合わせページからお気軽にお尋ね下さい。

0120-489-572

受付時間:平日9:30~18:00

メールでのお問い合わせはコチラ