大阪市西区西本町の法律事務所、リトラス弁護士法人の弁護士の山下翔です。
今回は、借金を減額するために行う債務整理である個人再生に関して、住宅ローン特則の対象となる「住宅資金貸付債権」について、解説したいと思います。
自己破産をすれば、借金を返さなくてよくなりますが、持ち家の場合、自宅を手放すことになります。
しかし、個人再生の手続であれば、住宅ローン特則を利用して自宅を残せる可能性があります。
この住宅ローン特則に関して、対象になる「住宅資金貸付債権」について、詳しくご説明いたします。
1 民事再生法の規定
住宅ローン特則を利用するには、個人再生(小規模個人再生又は給与所得者等再生)の利用条件を満たしていることに加えて、住宅ローン特則を利用する場合に固有の条件があります。
その中でも、基本的な事項として、対象債権が「住宅資金貸付債権」であることが必要になります。
民事再生法196条3号において、「住宅資金貸付債権」については以下のとおり定義されています。
「住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって、当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。以下「保証会社」という。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいう。」
分解すると、以下のとおりになりますので、一つずつ説明していきます。
① 住宅の建設・購入・改良に必要な資金の貸付けであること
② 分割払いの定めのある貸し付けであること
③ 再生債権であること
④ 貸付債権又は求償権の抵当権が住宅に設定されていること
2 住宅の建設・購入・改良に必要な資金の貸付け
「住宅資金貸付債権」に該当するためには、「住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付け」である必要があります。
「住宅」の意味については、別途、詳しく説明しますが、取り敢えず、お住まいのご自宅を想定していただければと思います。
住宅の建設・購入のための資金である必要がありますので、自動車ローンや事業資金、その他生活費のための貸付である場合には該当しません。
住宅を建設したり、購入したりする場合、その住宅の敷地や借地権を一緒に取得する必要があることもありますが、その敷地や借地権の取得のための資金も含まれます。
また、住宅の建設・購入費用だけではなく、リフォーム等の住宅の改良に必要な資金の貸付も該当します。
通常は、金銭消費貸借契約書の「借入目的」や「借入金使途」の欄で確認することができますが、明らかでない場合には、不動産売買契約書、増改築などの請負契約書、領収証など、どのような費用のために必要であったかを裏付ける資料を提出する必要があります。
住宅ローンとして借り入れた金銭の一部を他の用途に流用している場合、その流用部分の占める割合によっては、この要件を充たしていると認められず、借り入れ全体が「住宅資金貸付債権」には該当しない可能性があります。
住宅ローンとして借り入れた金銭のうちの少額とは言えない額を自動車購入費用に充てている場合や、相当額を既存の債務の返済に充てている場合などには、貸付資金がこの要件を充たしているとはいえず、住宅ローン特則を使うことができなくなります。
自宅の買い替えを行っていた場合に、買い替え前の残ローンを買い換え後の住宅ローンに一体化させている場合も、過去に居住のように供していた建物は住宅ローン特則における「住宅」に該当しないため、買い替え前の残ローン部分が全体のローンに占める割合によっては、住宅ローン特則を使えないことがあります。
自宅購入時に、住宅ローンとは別に諸費用ローンを組んでいる場合、諸費用ローンは金融実務上住宅ローンとは別に扱われていることや、貸出使途が一律でないことから、「住宅資金貸付債権」に該当しない可能性があります。
諸費用ローンの額と使途によっては、住宅ローン特則の使用が許される場合もあります。
この場合には、利用が許されるか否かの審査のため、諸費用ローンの使途が契約書上明らかでないときや額が不相当に高額なときには、使途に関する資料の提出が求められることがあります。
住宅ローンの借り換えをしている場合でも、当初の借入が住宅資金貸付債権の要件を備えており、かつ、借り換え後のローンに住宅資金貸付債権の性質を有しない債権が混入していなければ、借り換え後の債権も住宅資金貸付債権として扱われます。
この場合には、現在の住宅ローン契約書のほか、借り換え時の旧ローンの残高が確認できる資料、借り換え前のローン契約書などの提出が必要になります。
借り換え前の借入額より借り換え後の借入額が増えている場合には、増加した金額の使途の説明及び裏付け資料の提出も必要になります。
住宅に設定されている担保権が根抵当権であっても、根抵当権の被担保債権が住宅資金貸付債権のみであれば、住宅ローン特則を利用することができます。
この場合、登記の記載だけでは、被担保債権の内容を確認できないため、根抵当権者が作成した証明書(被担保債権が住宅ローン債権のみである旨を証するもの)を提出することになります。
3 分割払いの定めのある貸付け
「住宅資金貸付債権」に該当するためには、「分割払の定めのある」貸付けである必要があります。
一括弁済の住宅購入関連債権については、住宅ローン特則の適用はありません。
4 再生債権であること
「住宅資金貸付債権」に該当するためには、「再生債権」である必要があります。
再生債権とは、「再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて財産上の請求権」とされています(民事再生法84条1項)。
5 貸付債権又は求償権の抵当権が住宅に設定されていること
「住宅資金貸付債権」に該当するためには、貸付債権又は求償権の抵当権が住宅に設定されていることが必要になります。
住宅ローンなどの貸付債権自体だけではなく、その貸付債権の保証人となっている保証会社の求償権を担保するために抵当権が住宅に設定されている場合も含まれます。
ただし、ここでの保証人は「保証を業とする者」でなければならず、親族などが保証人となっている場合にその保証人の求償権を担保するために抵当権が設定されていたとしても、対象にはなりません。
住宅ローンを組んだ場合でも、他に十分な担保がある場合など、抵当権が設定されないこともあり得ますが、その場合には「住宅資金貸付債権」には該当しません。
抵当権は「住宅」に設定されていることが必要であり、住宅の敷地だけに抵当権が設定され、「住宅」に抵当権が設定されていない場合には、「住宅資金貸付債権」には該当しません。
上記のとおり、保証会社が、再生債務者に対する求償権を担保するために住宅に抵当権を有している場合にも住宅資金貸付銀行が有する住宅ローン債権は「住宅資金貸付債権」に該当し、それについて住宅資金特別条項を定めることができます。
ただし、保証会社が債務の全部を履行(代位弁済)した場合は、その履行後6か月を経過する日までに再生手続き開始の申立てが為された場合に限り、住宅資金特別条項を定めることができます(民事再生法198条2項)。
そして、住宅資金特別条項がある再生計画の認可決定が確定した場合は、保証会社による保証債務の履行はなかったものとみなされ(民事再生法204条1項)、保証会社から保証債務の履行を受けた金融機関は、履行を受けた金員を保証会社に返還しなければならなくなります。
6 最後に
今回は、住宅ローン特則の適用対象になる「住宅資金貸付債権」についてご説明しましたが、住宅ローン特則を利用する場合には、個人再生自体の要件に加えて住宅資金特別条項固有の要件も充たしていなければならず、要件を充たしているかどうかの判断は複雑になります。
したがって、住宅資金特別条項の利用をお考えの方は、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
当事務所でも、個人再生手続に関するご相談をお受けしておりますので、お気軽にお問合せいただければと存じます。
大阪市西区西本町の法律事務所 リトラス弁護士法人
弁護士 山下翔